ご指名バナナくん

 75歳の父親から、電話がかかってきた。ほとんど電話をしない人からかかってくると、良くない知らせではないかと、身構えてしまう。

「あのさー、バナナの苗があったら買って送ってくれ。」

ということを、ネイティブ津軽弁で言い放ち、電話が切れた。

 父親は熱帯植物栽培好きである。10年以上前に、小江戸川越を観光した時に、レモンの苗木を買ったことに端を発し、3年ほど前には、実のなる熱帯植物を送れと、漠然と言って来た。

 青森県で熱帯植物。

 寒さに出来るだけ強そうな奴とか、実はともかく花が咲きそうな奴とか、実を結ぶか分からない努力をして、パッションフルーツと、もうひとつ何かを送った。冬には予定通り、枯れてしまったが。

 80歳を過ぎてエベレストに登頂した三浦雄一郎さんみたいな命の危険はないが、父親も、何かと戦いたいらしい。しかも今度はバナナをご指名だ。

 こんな無謀に見えるチャレンジを、私は喜んでいる。昨年父親は難病にかかり、体調が悪くなり、体力・気力が随分落ちた。しかしその後の治療が効を奏し、最近は元の状態近くまで体力も戻ってきた。そんなところに来てのバナナだ。生きる気力のためなら、青森にバナナを送ろうじゃないか。

 と、意気込みだけは立派だが、いざ探してみると、その大変さが良く分かった。
 当然ながら、バナナの苗は寒さに弱い。それでも、耐寒性あり品種とやらを見つけた時には、「これだ!」と思った。冬には家の中に取り込んで栽培すれば良い。
 ところが世の中そんなに甘くない。米印注釈をよくよく見ると、「ただし2m以上に成長したらね」とか書いてある。確かにバナナの木はデカイ、というか巨大だ。いくら天井が高い田舎の家でも、2m以上の植物の取り込みはそりゃ難しいし、まずそんな鉢は、75のジイサンには持ち運べない。もっと小振りのものはないかと、あきらめずに探すと、耐寒性はやや落ちるものの、1m位で実をつける「スーパーミニバナナ」とか奴があった。こいつに決定!
20130609 バナナ-1 20130609 バナナ-2

 1ヶ月後に実家に行ってみると、当のバナナくんはビニールハウスの中で立派な鉢に収まっていた。到着時は葉が2枚だけだったのが、ここまで増えたらしい。根元に刺したハサミで大きさを想像して欲しい。次の植え替えのための一回り大きな鉢も、調達済みだった。そして、このビニールハウスの中には、10年前のレモンちゃんも、まだ枯れずに頑張っていた。

 バナナくんやレモンちゃんのことを話す父親は、ニコニコと楽しそうだ。それだけで、充分にお役目を果たしている。
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デジカメで、花と写真を楽しんでいます。感じたものが、少しでも伝えられたらいいなあと思います。

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